冬眠休眠研究フォーラム
Forum for Hibernation & Torpor Research

PubMedID 34172811
Title Hepatic resistance to cold ferroptosis in a mammalian hibernator Syrian hamster depends on effective storage of diet-derived α-tocopherol.
Journal Communications biology 2021 Jun;4(1):796.
Author Anegawa D, Sugiura Y, Matsuoka Y, Sone M, Shichiri M, Otsuka R, Ishida N, Yamada KI, Suematsu M, Miura M, Yamaguchi Y

シリアンハムスター肝細胞の低温耐性に食餌由来のビタミンEが関与する

Posted by 山口 良文, 北海道大学低温科学研究所 冬眠代謝グループ
投稿日 / Date 2021/07/05

 私たちのグループから最近出た仕事を紹介します。冬眠する哺乳類シリアンハムスター(以後ハム)は、細胞レベルで低温・復温耐性を示します。肝臓の初代培養細胞を低温培養して低温耐性機構を調べる過程で、初代培養細胞を取り出した動物が食べていた餌依存的に低温耐性が変わるという現象を見出しました。色々な検討の結果、餌に含まれるビタミンEのうちα-Tocopherol(αT)の含有量がある程度高いことが、ハム初代培養肝細胞に低温耐性をもたらすために必要ということがわかりました。このαT高含有餌を摂取した場合、ハムは肝細胞および血中でαTを高濃度で維持し低温耐性を発揮するのに対し、もともと低温耐性を持たないマウスではそうした現象が見られませんでした。すなわち、ハムはマウスにはない、餌由来のαTを肝臓および血中で高濃度で保持することで低温耐性を発揮する事が示唆されました。さらに、低温環境で冬眠中の個体では、常温環境の非冬眠個体に比べ、αT血中濃度が非常に高くなっていました。これらの事実は、ハムはもともとαTを高濃度で保持する能力を有し、冬眠期にはされに増強することを示します。冬眠哺乳類が低温耐性を発揮する機構は未だ多くが謎に包まれていますが、実際の自然界でも摂取しうるビタミンEを活用することは理になかっているといえ、その制御機構をさらに理解すべえ現在研究を進めています。
 本研究では上記に加え、低温で生じる肝細胞死はferropotisisと呼ばれる細胞死の基準を満たしている事、ハムとマウスとの間で肝臓のリン脂質プロファイルの差、等も明らかにしています。こうした脂質プロファイルの差異とその制御機構が、幅広い温度域で生存する冬眠哺乳類の特徴として捉えられるのかも、今後の課題といえます。
 本フォーラムの活用の仕方として著者ならではの裏話等もあれば、、ということなので以下簡単に。実はこの餌依存的な低温耐性の差異とう現象は、3年前に東大から北大に異動した際に動物の餌を(私がうっかり)変えたことががきっかけとなり見つかったという経緯があります。東大での実験で見れていた低温耐性が北大での実験では見れなくなって、初めはかなり焦りました。違いは水か?気温か?と、いろいろ迷走し長い夜に突入したかに思えましたが、原因がわかってみれば、むしろそこが突破口となり、劇的に研究が進みました。筆頭著者の姉川君の粘り勝ちでした。何がきっかけになるかわからない、セレンディピティ(serendipity)を身を以て実感した事例です。