冬眠明けに生じる長日への事前同調現象の発見〜内因性の季節ぼけ防止プログラム?
Posted by | Satoshi Nakagawa, 北海道大学大学院環境科学院 生物圏科学専攻(D3) 北大低温研・山口研 |
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投稿日 / Date | 2023/10/21 |
最近 Proceeding B誌に掲載された私たちの論文についてご紹介します。
シリアンハムスター(以後、ハムスターと記載)は、周囲の環境が短日寒冷になると冬眠を始めますが、外界環境が一定で変化しない飼育下でも冬眠が数ヶ月続くと自ずから冬眠を終え、冬眠期を終了することが知られています。ハムスターの日周リズムは、季節の指標となる日長によって変化します。すなわち、長日に同調した場合、明期から暗期への切り替わりに近いタイミングで活動量や体温が上昇する夏型となる一方、短日に同調した場合、暗期への切り替わりから数時間遅れて上昇する冬型となります。本論文では、冬眠前に冬型となった体温の日周リズムが、周囲が短日寒冷のまま一定に維持されていても、冬眠期が終了した直後には、自発的に夏型に切り替わることを見出しました。
ハムスターなどの小型の冬眠哺乳類は冬眠期の大半を、代謝抑制・体熱産生体温が大幅に抑制された深冬眠と呼ばれる、代謝依存的な体内の時間経過が大幅に減少したとも受け取れる状態で、外界環境からの日長刺激のない巣穴の中で過ごします。従って、冬眠中の個体の体内時計は実際の外界時刻から、徐々に遅れていくことになります。一方で、外界の日長はハムスターが冬眠をしている間の冬から春にかけての季節のめぐりにより延長されていくため、「時間遅れ」はいっそう大きくなります。今回の発見は、このような時間遅れを補正するために、冬眠から覚めて巣穴から出た際に経験するであろう延長された日長に、あらかじめ同調しやすくなるようにするプログラムが、ハムスターの冬眠には組み込まれていることを示しています。
以上の結果は、予期せず見つけた現象であったこともあり、自然の緻密さに驚きました。初回投稿時は、時間生物学の用語 (日周リズム、概日リズムなど) の使い分けも正しくできていなかったのですが、研究内容に基づき、示唆に富むコメントを多くくれた査読者のお陰もあって、結果を無事論文として報告することができました。今後は、今回体温で見られた自発的な日周リズムの夏型化が、活動でも見られるか調べていく予定です。