冬眠休眠研究フォーラム
Forum for Hibernation & Torpor Research

DOI 10.7554/eLife.94616
Title Remodeling of skeletal muscle myosin metabolic states in hibernating mammals
Journal eLife. 2024 May;13
Author Christopher TA Lewis,Elise G Melhedegaard,Marija M Ognjanovic,Mathilde S Olsen,Jenni Laitila,Robert AE Seaborne,Magnus Gronset,Changxin Zhang,Hiroyuki Iwamoto,Anthony L Hessel,Michel N Kuehn,Carla Merino,Nuria Amigo,Ole Frobert,Sylvain Giroud,James F Staples,Anna V Goropashnaya,Vadim B Fedorov,Brian Barnes,Oivind Toien,Kelly Drew,Ryan J Sprenger,Julien Ochala

Remodeling of skeletal muscle myosin metabolic states in hibernating mammals

Posted by Nakagawa Satoshi, 北海道大学低温科学研究所 冬眠代謝生理発達分野
投稿日 / Date 2024/09/03

冬眠する哺乳類の複数種について、骨格筋の性質を調べた論文がeLifeに出ていたので紹介します。哺乳類骨格筋のミオシン頭部は、無秩序弛緩 (DRX) または超弛緩 (SRX) 状態となります。このうちSRX状態では、ATPターンオーバーがより抑制されます。冬眠は代謝抑制による環境適応であることから、冬眠中の骨格筋ミオシン頭部はSRX状態にあるとの予想もできます。この仮説の検証が、冬眠哺乳類から単離した筋繊維に対し、mant-ATP法等の手法を用いることで行われました。その結果予想に反し、冬眠哺乳類(ユーラシアヒグマ、アメリカクロクマ、ジュウサンセンジリス、メガネヤマネ)ではいずれも、冬眠期にDRX状態が維持されていることが示唆されました。また小型の冬眠哺乳類(ジュウサンセンジリス、ヤマネ)では、冬眠期(深冬眠および中途覚醒期)に、ATPターンオーバータイムが短縮していることが示されました。冬眠期のDRX状態の維持は、冬眠期の筋萎縮の回避に寄与している可能性も考えられます。さらに、非冬眠および通常体温状態の中途覚醒期の筋繊維では、低温(8 °C)曝露によるATPターンオーバータイムの短縮が見られましたが、この短縮は深冬眠期の筋繊維では認められませんでした(ジュウサンセンジリスのみ解析)。従って小型哺乳類では、深冬眠中にミオシンが安定化され、低温曝露への応答により生じる、筋繊維でのATPターンオーバーが阻害されることで、エネルギー消費や熱産生が抑制されている可能性が考えられました。また本論文の後半では、ジュウサンセンジリスにおいて、ミオシンのリン酸化状態や、骨格筋のプロテオーム発現解析も行っており、冬眠期に生じる骨格筋タンパク質の変動に関するデータも出ています。