Remodeling of skeletal muscle myosin metabolic states in hibernating mammals
Posted by | Nakagawa Satoshi, 北海道大学低温科学研究所 冬眠代謝生理発達分野 |
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投稿日 / Date | 2024/09/03 |
冬眠する哺乳類の複数種について、骨格筋の性質を調べた論文がeLifeに出ていたので紹介します。哺乳類骨格筋のミオシン頭部は、無秩序弛緩 (DRX) または超弛緩 (SRX) 状態となります。このうちSRX状態では、ATPターンオーバーがより抑制されます。冬眠は代謝抑制による環境適応であることから、冬眠中の骨格筋ミオシン頭部はSRX状態にあるとの予想もできます。この仮説の検証が、冬眠哺乳類から単離した筋繊維に対し、mant-ATP法等の手法を用いることで行われました。その結果予想に反し、冬眠哺乳類(ユーラシアヒグマ、アメリカクロクマ、ジュウサンセンジリス、メガネヤマネ)ではいずれも、冬眠期にDRX状態が維持されていることが示唆されました。また小型の冬眠哺乳類(ジュウサンセンジリス、ヤマネ)では、冬眠期(深冬眠および中途覚醒期)に、ATPターンオーバータイムが短縮していることが示されました。冬眠期のDRX状態の維持は、冬眠期の筋萎縮の回避に寄与している可能性も考えられます。さらに、非冬眠および通常体温状態の中途覚醒期の筋繊維では、低温(8 °C)曝露によるATPターンオーバータイムの短縮が見られましたが、この短縮は深冬眠期の筋繊維では認められませんでした(ジュウサンセンジリスのみ解析)。従って小型哺乳類では、深冬眠中にミオシンが安定化され、低温曝露への応答により生じる、筋繊維でのATPターンオーバーが阻害されることで、エネルギー消費や熱産生が抑制されている可能性が考えられました。また本論文の後半では、ジュウサンセンジリスにおいて、ミオシンのリン酸化状態や、骨格筋のプロテオーム発現解析も行っており、冬眠期に生じる骨格筋タンパク質の変動に関するデータも出ています。