冬眠休眠研究フォーラム
Forum for Hibernation & Torpor Research

DOI 10.1016/j.cub.2024.11.006
Title Inhibition of the hypothalamic ventromedial periventricular area activates a dynorphin pathway-dependent thermoregulatory inversion in rats
Journal Current Biology. 2024 Dec;
Author Shaun F. Morrison,Georgina Cano,Shelby L. Hernan,Pierfrancesco Chiavetta,Domenico Tupone

ラット視床下部のVMPeAの阻害によるダイノルフィン経路の活性化が体温制御の逆転を引き起こす

Posted by 曽根 正光, 北海道大学、低温科学研究所 冬眠代謝生理発達分野
投稿日 / Date 2024/12/10

熱産生を寒冷環境で促進し、温暖環境で抑制することで、哺乳類は体温恒常性を維持している。このような体温制御は、皮膚などに存在する温度受容器から中枢神経系の複数の領域を経由し、褐色脂肪組織などの熱効果器へ至る情報のリレーによって担われている。その中でも、脳内の中腕傍核(PBN)→視索前野(POA)→視床下部背内側部(DMH)と情報伝達される回路は体温制御系の中心と考えられている。一方、哺乳類の冬眠や休眠は、寒冷環境であえて熱産生を抑制して低体温となり、環境温度が高まればそこから熱産生を再開して通常体温に戻ることから、体温制御の観点で通常とは反対の現象とみることもできる。著者らは、以前、DMHの吻側で脳を切断してPOA-DMH接続とPBN-POA接続を遮断する処理(Pre-DMH transX)やアデノシンA1受容体アゴニストであるCHAの脳室投与により、非冬眠・非休眠動物のラットにおいて、寒冷環境下で褐色脂肪組織へ接続する交感神経が抑制され体温が下がり、逆に温暖環境下で熱産生が促進されるという、通常とは反対の体温制御特性を示すことを見出した(Tupone, 2017)。彼らはこの現象をThermoregulatory inversion (TI) と呼び、新しいパラダイムとして提唱している。今回の論文では、①muscimolの微量注入によりPOAの中でも腹内側傍室部(VMPeA)と呼ばれる領域の抑制がTIに重要であること、②PBNからDMHに直接投射するDynorphin(Dyn)産生細胞がいること、③PBNのDyn産生細胞は通常は温暖環境で活性化し、寒冷環境で不活性だが、TI状態では寒冷環境で活性化すること、④Dyn受容体のアンタゴニストをDMHに打つと、Pre-DMH transXやCHAによるTI(寒冷下での熱産生抑制)が阻害されることを示している。以上から、VMPeA阻害によりPBNのDyn産生細胞の環境温度依存的な発火特性が逆転することでTI状態が引き起こされることが示唆された。しかし、通常POAの上流にあると考えられるPBNにおいて、その特性変化がPre-DMH transXのような処理で起こるのか明らかではなく、著者らは通常においてPOAからPBNへの未同定の制御があるものと想定している。